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「新日本国憲法ゲンロン草案」はオママゴトのように感じる 

先日、なんとはなしにネットをまわっていたら、「新日本国憲法ゲンロン草案」なるものに出会いました。

「新日本国憲法ゲンロン草案」とは、楠正憲氏、境真良氏、白田秀彰氏、西田亮介氏、東浩紀氏らによる「ゲンロン憲法委員会」が中心となって検討・起草した日本国憲法改正案です。

ゲンロン草案の条文および解説は7月17日発売の『思想地図β vol.3』に掲載されており、「憲法2.0 wiki」のサイトでも草案の全条文が公開されています。

このゲンロン憲法草案の条文を、私は上記サイトで見ました。率直に言って、私はこのゲンロン草案は、内容的に大きな問題があり、起草の動機においても非常に安易だと感じました。

以下、ゲンロン草案の何が問題か、いくつか指摘したいと思います。

1.なぜ解説をネットで公開しないのか?

前述の通り草案の条文はネット上で見ることができますが、コンメンタールや現憲法との比較対照表が掲載されていないので、いったい何条のどこをどのように追加・修正したのか、また、どういう理念や考えのもと、そうした変更を行ったのか、よくわかりません。

『思想地図β vol.3』には解説が掲載されているので、それを買って読めばよいではないかという反論があるかもしれませんが、憲法改正をきちんと議論するのであれば、条文だけではなく、その背景にある理念や考えも含めて検討することが不可欠でしょう。起草者が何を考えているのかわからなければ、条文だけ公開しても意味がないと思われます。

また、上記サイトでは、草案を閲覧できるだけでなく、誰でも自由に編集できるようになっていますが、これも上と同じ理由から、思いつきや冷やかしを集める他は、さほど大きな意味はないと思われます。おそらくネット上でのオープンな議論を期待しているのかもしれませんが、残念ながら、オープンな議論を行うには基本的条件が欠けています。

もし起草者らが、本をたくさん売ることよりも、ゲンロン草案について、多くの人に議論してもらうことを本気で期待しているのであれば、最低でも個々の起草の趣旨や条文解説をネット上でも公開することが必要だと思われます。

2.「自由権」と「社会権」の違いをよくわかっていないのではないか?

私は憲法学者ではないので、ゲンロン草案を全体にわたって子細に検討することはできませんが、多少なりとも私も知っている労働基本権に関わる条文を見てみると、とんでもなく問題だと感じました。

下記の通り、現憲法では、第27条に勤労の権利が置かれており、第28条にいわゆる労働三権である労働基本権が置かれています。これに対して、ゲンロン草案は、現憲法の第28条における「勤労者」の文言を削除するとともに、「権利」という文言を「自由」に置き換えて第81条としています。さらに、これを勤労の権利に関する条文である第86条よりも前に持ってきています。

<日本国憲法>

第27条
すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
児童は、これを酷使してはならない。

第28条
勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。



<ゲンロン草案>

第81条
団結する自由および団体交渉その他の団体行動をする自由は、これを保障する。

第86条
すべて国民および住民は、勤労の権利を有する。
賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
児童は、これを酷使してはならない。



正直なところ、これを見て私は驚愕しましたが、とりあえずその理由を探ろうと、本屋で『思想地図β vol.3』を立ち読みしたところ(後述するように買うにはあんまりな内容でした)、次のように説明されていました。

ーー現行憲法第28条は、第81条で自由の一種として記述した。第76条から第80条までは、個人から社会へ拡大する自由を記述している。第81条は、この社会的な活動の自由を記述している。労働に関する事項についてのみならず、一般に国民および住民が、団結し、団体で行動し、団体で交渉することが自由であることは、個人の身体から社会的活動へと広がる自由の観点から当然であり、この自由を国家や政府が制約できないと記述することが自然だと考えた。(以上、説明の要約)

要するに、「団結し、団体で行動し、団体で交渉すること」は、労働者に限らず広く一般の国民・住民の「自由」として保障されるべきだ、ということのようです。

このゲンロン草案の第81条を私が非常に問題だと感じるのは、起草者らが「自由権」と「社会権」の違いを理解しておらず、また、現憲法第28条が何を保障し、何を制約しているのかまったく理解していないと思われるからです。

日本国憲法第28条はいわゆる労働三権(団結権、団体行動権、団体交渉権)について述べたものであり、この第28条が労働組合法を根拠付けています。労働組合法では労働者(労働組合)に対して、さまざまな特権(正当な組合活動や争議行動に対する刑事・民事免責など)や法的保護(不当労働行為救済制度)を与えています。そして、当然のことながら、これらは労働者(労働組合)と使用者との間の関係を規定するものです。

ゲンロン草案第81条は、労働者だけでなく一般国民・住民においても、団結したり、団体交渉したりする「自由」を保障しようとするものですが、いったいその相手は国家なのでしょうか、使用者なのでしょうか。仮に国家だとして、いったい何を交渉する自由を認めようと言うのでしょうか(そもそも、草案第80条で集会・結社の自由を置いているにもかかわらず、さらに第81条で団結・団体交渉等の自由を置く意義が不明です)。

言うまでもなく、私人と国家の関係と、私人間(しじんかん)の関係は、その内容も性格も大きく異なります。二つを一緒くたにして憲法で規定することはどう考えても無理があるし、現行憲法第28条が根拠付けている労働組合法にも大きく影響することとなります。

草案では漠然と、一般国民・住民にまで、団結したり、団体交渉したりする自由を保障しようとしていますが、対国家と私人間の関係の違いををまったく理解できていないと思われます。

さらに言えば、草案第81条は、現憲法第28条の「権利」を「自由」に置き換えていますが、先ほど述べたように現憲法第28条が保障する「権利」は、労働者が団結したり、団体交渉したりすることを国家から妨げられないということにとどまらず、労働組合の結成や正当な争議行動を、国家が積極的に保護・支援するということです。

言わば「国家からの自由」としての「自由権」ではなく、「国家による自由」としての「社会権」と言うことができるでしょう。ゲンロン草案は、そうした「自由権」と「社会権」の違いも理解もしていなければ、「権利」を「自由」に置き換えることが何を意味するかもまるっきり考えていないのでしょう。

以上のように、ゲンロン草案は、素人の私から見ても非常にトンデモな内容となっており、その他の部分のデキについても深刻な疑念を抱かせる結果となっています。

3.憲法を変えれば、日本が変わるのか?

ゲンロン草案を起草した動機については『思想地図β vol.3』で述べられているようですが、残念ながらネット上では公開されていません。

ただし、憲法2.0 wikiにおいて、BLOGOS編集部がゲンロン草案の意義を、次のようにまとめています。

憲法を読み込むと、そこには私たちの国がどういう国であり、どのようにシステムを動かしていくのか、そしてその先には、国として、どのような在り方を目指すのか、が書き込まれていることがわかります。さらに、憲法は、国民によって変えられるものでもあります。経済の停滞や東日本震災に見舞われた日本。いま一度、明治憲法、そして現行の日本国憲法の成立過程にも思いを致し、これから、どのような国を目指すべきか、憲法を通して考えてみることは、とても有意義なことなのではないでしょうか。



簡単に言うと、「新しい国づくりに向けて、新しい憲法を考えてみる」ということだと思います。東浩紀氏もTwitter上で同様のことを言っており、本のコピーもそのように書いてあるので、大枠の動機はこういうことなのでしょう。

この動機の中身について、子細に検証して、どうこう言うつもりはありません。それなりにまっとうな主張もあるかと思います。私が疑問視するのは、動機の中身ではなく、動機の根底にある「憲法を変えれば、日本が変わる」という発想です。

これはゲンロン草案の起草者らに限ったことではなく、政治家をはじめとして、日本社会の多くの人がもつ共通の傾向かもしれません。数年前に、各政党や団体、新聞社などが、こぞって新しい憲法案を作って、公表したことがありましたが、それらも「憲法を変えれば、日本が変わる」という発想が根底にあるのだと思います。

ただし、そこでの問題の一つは、そういうふうにして起草された新憲法案が、往々にして、各政党や団体の思想信条や願望、思いつきを寄せ集めた自己満足のための代物になりがちだということです。

ゲンロン草案でも、外国籍を持つ者の権利や情報に関する権利など、さまざまな新しい理念や考えが盛り込まれていますが(趣旨は、それなりに理解できますが)、憲法学者の長谷部恭男氏は『憲法とは何か』の中で、次のように述べています。

たとえばプライバシーの権利や環境権を憲法に書き込むべきだという議論がある。しかし、これらは、憲法の条文に書き込んだとしても、国会の制定法や裁判所の判例を通じて具体化されなければ、何の意味もない条文である。プライバシーの権利は、すでに憲法13条の解釈として裁判所によって具体化されており、その侵害に対しては差止めや損害賠償請求の救済が認められている。憲法に書き込むことで新たに得られるものは無さそうである。環境権は、それを具体化する法令がなければ何の意味もないし、具体化する法令があれば、逆に憲法に書き込むことには、シンボリックな意味しかない。(p.18-19)



要するに、すでに現憲法下でも認められている権利については、わざわざ憲法を改正してまで書き込む必要はないし、仮に書き込んだとして、法や判例を通じて具体化されていなければ、現実的には何の意味もないということですね。

起草者らの理念や考えを、新憲法案にいろいろ込めたいと思うのは仕方がないかもしれませんが、それにシンボリックな意味以外ないのであれば、やはり自己満足と言わざるを得ません。

ひょっとしたら思考実験や議論喚起というねらいもあるかもしれませんが、であるならば、まずは現憲法の問題点について一つ一つ検証・議論を重ねていくべきで、いきなり全体的に見直しを行うなんてのは、手順として不適切であると言えます。

仮に改正案を提起するにしても、少なくともポイントを絞るべきであって、あれもこれも新しくしようなんていうのは、上の草案第81条の例を見るまでもなく、トンデモな内容に陥ることになります。「壊れていないものを直すな」ということわざはまさにこのことです。

起草動機のもう一つの問題点は、「憲法を変えれば、日本が変わる」という発想は、ややもすると、憲法を変えれば日本が抱える問題・課題も一気に解決・改善できるといった幻想をふりまきがちであるということです。そうした悪しき清算主義は、一つ一つ地道に問題・課題の解決・改善を図っていくことの軽視につながるだけでなく、憲法改正の実現可能性が低い分、かえって問題・課題の解決・改善を遅らせることにもなります。

こうしたことについて、前述の長谷部氏は次のように述べています。

憲法がなぜ、通常の法律よりも変えにくくなっているかといえば、意味のないことや危なっかしいことで憲法をいじくるのはやめて、通常の立法のプロセスで解決できる問題に政治のエネルギーを集中させるためである。不毛な憲法改正運動に無駄にエネルギーを注ぐのはやめて、関係する諸団体や諸官庁の利害の調整という、憲法改正論議より面倒で面白くないかも知れないが、より社会の利益に直結する問題の解決に、政治家の方々が時間とコストをかけるようにと、憲法はわざわざ改正が難しくなっている。あたかも、憲法の文言を変えること自体に意味があるかのような振りをするのはやめて、文言を変えたときその結果はどうなるのか、というあまり面白くはないが、肝心な問題に注意を向けるべきときが、そろそろきているように思われる。(p.21)



憲法というものをちゃんと考えていこうという起草者らの趣旨は理解できますが、そこからいきなり、個々の問題解決のための政策制度や社会的合意形成のプロセスをすっとばして、「新しい憲法を考えて、日本を再生させよう」となると、やはり安直あるいはナイーブであると言わざるを得ません(もっともゲンロン草案に限ったことではありませんが)。

結論。

後藤和智氏はゲンロン草案を批判し、その自己満足的な安直さを”ぼくのかんがえたさいきょうのせいたい”と評していますが、私も草案について同様の印象を持ちました。上に述べたように、中途半端な議論環境および草案の質に対する大きな疑念、起草動機の安直さ/ナイーブさを見る限り、厳しい言い方ですが、仲間うちでの「オママゴト」のように見えます。

起草者らメンバーは、旧態依然の頭の固い政治家や有識者ではないのでしょうから、もっと地に足のついた日本再生に向けた提言が期待されるのではないでしょうか。

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Posted on 2012/08/05 Sun. 14:13 [edit]

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