原発再稼働に関する議論に欠けているもの(1) 安全性と経済的利益をめぐる不毛な対立

北海道電力泊原発3号機が5月5日の夜に、定期検査に入り、ついに国内のすべての原発が停止することになりました。

関西電力大飯原発3、4号機の再稼働をめぐっては、国・地方・電力会社など、さまざまな意向や判断が絡み合い、膠着状態にあるようですが、こうした原発の再稼働をめぐる議論において、大手メディアの報道も含め、非常に問題があるように思えます。単純に電力不足や電気料金の値上げの是非といった問題で済ませてよいとは思えません。

論点はいろいろありますが、一番大きな問題は、安全性と経済的利益をめぐる不毛な対立です。

再稼働の是非を論じるにあたっては、原発の安全対策がしっかり講じられているか、これが第一に重視されるべきでしょう。ストレステストや避難計画等々いろいろあるでしょうが、要は東日本大震災と同等あるいはそれ以上の大地震が起こった場合でも、事故につながらないような安全対策・体制がとられ、万が一、過酷事故が生じた場合に、地域住民の安全確保や損害補償のための体制がきちんと整備されていることが、確認されなければならない、ということだと思います。

大手メディアの報道や再稼働を強く求める人たちの主張には、このような観点はほとんど見られません。電力が足りなくなる、火力発電によるコストが増加する、等々の理由により、再稼働を強く要請しているようですが、要するに、それは目先の損得を優先して、安全性や長期的な観点での経済合理性を軽視しているということだと思います。

もし仮に、近いうちに大飯原発周辺において大地震が発生し、同様の事故が起こった場合、その人的・経済的被害は、福島第一原発事故以上のものとなるでしょうし、なにより、私たちが福島第一原発事故から何も学ばなかったことを世界中に露呈することになります。

電力不足や燃料費のコスト増による日本経済への影響について、仕方がないというわけではもちろんありません。できるだけ、そうした経済へのダメージを少なくすることが必要です。しかし、だからと言って、安全対策もおざなりにしたままで、原発再稼働を進めることは、倫理的にはもとより、リスク管理や社会的コンセンサスの面から見ても、とうてい容認できるものではないと考えます。

現在の原発再稼働をめぐる議論における最大の問題は、安全をとるか、経済的利益をとるか、という単純な対立図式から抜け出ていないことだと思います。原発再稼働が必要であれば、政府も電力会社も、夏の電力需要が逼迫するまでに最大限の安全対策を講じるよう努め、その上で依然として残るリスクを国民に伝え、判断してもらうべきではないでしょうか。そこで、国民あるいは地域がリスクを受け止めた上で、再稼働を選ぶのであれば、それで良いと思います。

電力供給については、まだしばらくは時間の余裕があるのですから、なりふりかまわず再稼働を進める必要はまったくないはずです。リスク管理や社会的コンセンサスの観点から、再稼働するためには、どのような安全対策を講じなければならないか、ということを議論すべきだと思います。

大手メディアの報道も再稼働を求める主張も、こういう観点がまったく抜け落ちていると感じます。

「原発ゼロ」日本42年ぶり 日本経済に大ダメージ
(フジサンケイ ビジネスアイ 5月5日(土)8時15分配信)

国内で稼働する原子力発電所がついに、42年ぶりにゼロとなる。国内50基のうち唯一運転している北海道電力の泊原発3号機(北海道泊村、91万2000キロワット)が5日深夜、定期検査のため発電を停止。そのまま「原発ゼロ」が長期化すれば日本経済へのダメージは大きい。火力発電への依存度が高まり、燃料費は年間3兆円超も増加。電気料金値上げが企業活動の足を引っ張るだけでなく、国内製造業の空洞化に拍車をかけ、消費を冷え込ませる恐れもある。

稼働ゼロは、当時は2基だった原発が検査で停止した1970年4月30日〜5月4日以来。政府は関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働への同意を地元などに求めているが、見通しは立っていない。

経済産業省幹部は「原発ゼロが続けば日本は衰退の道をたどる」と懸念する。試算では1年間の原発ゼロで、石油や液化天然ガス(LNG)などの燃料費は10年度より3兆1000億円増える。日本の国内総生産(GDP)の約0.6%に当たる「国富」が海外に流出する格好だ。

燃料費増加は電気料金の値上げに直結する。東電は既に企業向けで平均17%の値上げを発表済み。家庭向けでも10%の値上げを行う方向だ。SMBC日興証券の試算によると、東電管内では企業の経常利益が約3900億円減り、家計の消費にも約3000億円のマイナスの影響がある。

東電以外の電力各社にも燃料費増は経営の重荷となる。「いずれ値上げに踏み切らざるを得なくなる」(政府関係者)とみられ、影響は全国に広がる。

原発ゼロが続けば、慢性的な電力不足は避けられない。原発の代替電源として期待される再生可能エネルギーの普及には課題が多く、火力発電の新設には10年程度かかるからだ。

企業は自家発電設備の運転や生産のシフトといった対応を迫られ、コスト増を余儀なくされる。ある大手メーカー首脳は「製造拠点の海外移転を真剣に検討せざるを得ない」と話す。海外流出は国内の雇用を減らし、国民生活も直撃する。

原発ゼロのまま今夏が猛暑になった場合、政府の需給検証委員会は日本全体で0.4%の電力不足になると試算。原発依存度が高い関電管内での不足は16.3%に達する見込みだ。

今夏は九州電力で3.7%、北海道電力でも3.1%の電力が不足する見通し。大口顧客向けの電力使用制限令や計画停電が、企業活動に犠牲を強いる事態が再び迫りつつある。

池田信夫氏の知的不誠実さについて(2) チェルノブイリ事故による健康被害がなかったかのような発言について

池田信夫氏の評価については、いろいろあるようですが、原発再稼働に関して俄然、活発になってきた彼の発言を見ていると、彼の知的誠実さを疑わざるをえません。

例えば、彼の下記の発言。「スリーマイル島でもチェルノブイリでも、放射性物質の飛散による癌死亡率の増加は、今のところ1人も確認されていない」とのことです。にわかには信じがたいことですが、この根拠は、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告に基づいているようです。



リンク先にある「チェルノブイリ事故についての放射線の影響評価(要旨の日本語訳)」においては、確かに、(原発作業者の直接被曝と子どにおける甲状腺がんなどを除くと)事故後の避難住民において明確な癌発生率の増加は見られないとしています。

が、問題は、ここです。池田氏は、どういうわけか、甲状腺がんによる健康被害にまったく触れることなく、あたかもチェルノブイリ原発事故では、原発作業者以外の健康被害はなかったなどのように言います。しかし、池田氏があげる当のリンク先では下記のように、明確に甲状腺がんの増加が指摘されています。

最近の20年間は、チェルノブイリ事故によって放出された放射性核種による被曝と後遺症の関係について、特に小児の甲状腺がんについて調査することに関心が集まった。事故直後から数ヶ月の間に甲状腺が受けた被曝線量は、事故当時ベラルーシ、ウクライナ、そしてロシア連邦内の最も影響を受けた地域にいた、高線量の放射性ヨウ素を含む乳を飲んでいた小児または思春期だった子供たちの間で特に高かった。2005年までに、この集団の間で6000を超える甲状腺がんの症例が診断された。これらの大部分は放射性ヨウ素の摂取に起因した。長期間にわたる増加は正確に数値化するのが難しいが、チェルノブイリ事故による甲状腺がんの発生率の増加は、今後何年にもわたって増加するであろうと予想されている。

高線量の被爆を受けた復旧作業に当たったロシア人作業員の間では、白血病の発生率が多少増加したという新たな証拠が現れてきている。しかし他の研究によると、放射線によって誘発された白血病の年間発生率は、被曝してから数十年のうちに低下するだろうと予想されている。さらに、復旧作業にあたった作業員に関する最近の研究では、比較的低線量の被曝によって目の水晶体の混濁が生じた可能性があると推測されている。

放射線障害から生還した106名の患者は、完全に健康が正常化するまで数年を要した。その患者のうち多数は、事故直後から数年の間に、臨床的に有意な割合で放射線によって誘発された白内障を発症した。1987年から2006年の間に、19名の生存者が様々な原因で死亡した。だが、このうち何名かは放射線被曝とは関係のない原因により死亡した。


池田氏の知的不誠実さが、最高潮に達するのは、こうした甲状腺がんについて意図的に、事故の影響から排除している点です。彼は2012年1月15日の「チェルノブイリ原発事故で最大の被害をもたらしたのは放射能ではない」の記事で下記のように書いています。

事故で死亡したのは、原子炉の消火にあたって急性放射線障害になった作業員134人のうち28人。さらに22人が、2010年末までに死亡した。これをすべて含めても直接の死者は50人であり、これ以外に急性被曝による死者は確認されていない。

ただ放射能に汚染された牛乳を飲んだ子供が5000人にのぼり、そのうち9人が死亡した。これはソ連政府が事故を隠したため、汚染された牧草を食べた牛によって放射能が濃縮され、それを飲んだ子供が10シーベルト以上の高い放射線を浴びたことが原因である。福島の場合、すぐ出荷停止措置がとられたため、子供の被曝量は最大でも35ミリシーベルト。甲状腺癌の心配はない。

IAEA(国際原子力機関)は90年代に「4000人が慢性被曝で癌になる」と予想し、児玉龍彦氏(東大)は「チェルノブイリで膀胱癌が増えた」と国会で証言したが、これは間違いである。国連科学委員会(unscear1 件)の調査の行なった被災者53万人の疫学調査でも、小児甲状腺癌以外の癌は増えていない。つまりチェルノブイリ1 件事故の放射能による死者は、59人しか確認されていないのだ。


池田氏は甲状腺がんの増加について認めながらも、最終的には、どういうわけか事故の影響から外しています。汚染されたミルクを飲ませない限り予防可能と考えたのか、あるいは、まだ死亡者数についてはっきりした結果が出ていないからなのかわかりませんが、こうした意図的切断は、もはや欺瞞的・詐術的でさえあります。

なお、チェルノブイリ事故による健康被害の規模については、報告機関によって異なっており、はっきりした統一的な見解には至っていないようです(WIKI「チェルノブイリ原発事故の影響」参照)。死亡者数については、例えば、IAEAが4,000人と推計しているのに対して、WHOの国際がん研究機関 (IARC)では、1万6千人と推計しています。

ただし、いずれにせよ、重大な健康被害が生じていることは、どの機関も明確に認めていることです。池田氏の「放射性物質の飛散による癌死亡率の増加は、今のところ1人も確認されていない」というのは、まったく無根拠・無責任な発言にほかなりません。
 
池田氏は恥を知るべきでしょう。

池田信夫氏の知的不誠実さについて(1)

池田信夫氏は、彼のブログやTwitterにて「脱原発」およびそれに類する考え方を厳しく批判しています。いずれの考え方をとるにせよ、議論自体は結構なことだと思いますが、彼の知的誠実性については、前々からかなり疑問に思っていたところでした。

例えば、彼の下記の発言。いったい何の根拠をもって「夏までに震度7の地震が起こる確率はほぼゼロ」と言い切っているのでしょうか。どこかの機関が出した予測に基づき言っているのでしょうか。ただの憶測であれば、そう書くべきでしょう。科学的知見に基づく発言をしようとするならば、それは最低限のルールであるはずです。

また、「原発を止めたら餓死者も出るだろう」とありますが、いったいどういうことでしょうか。原発停止により、停電等が起こりうる可能性はありますが、「餓死者が出る」というのは、よくわかりません。ひょっとして、電力不足>景気悪化>失業者が増大>生活が困窮し餓死する者が出る、ということでしょうか。それにしても、あまりにも飛躍しすぎていて、ただの煽り文句にしか見えません。池田氏は「脱原発派」の主張を、必要以上に危険を煽る詐欺師と批判しますが、自分自身は、どうなのでしょうか。



これに限らず、全般的に言って、池田氏の原発やエネルギー政策に関わる日々の発言の多くは、根拠が不明瞭で論理が飛躍しているように見受けられます。問題は、こうした知的誠実さを欠いた発言が、原発やエネルギー政策に関わる「有識者」の発言として、取りあげられかねないということですね。

2012年1〜4月に読んだ本


エネルギー進化論: 「第4の革命」が日本を変える (ちくま新書)エネルギー進化論: 「第4の革命」が日本を変える (ちくま新書)
(2011/12/05)
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「エネルギーシフト」の重要性をよりわかりやすく解説したものです。国内外のさまざまな事例をふまえ、それが机上の理屈ではないことを、強くアピールしています。

コラム3 「系統への影響」の誤解をとく
電力は、発電所から送電線を経由し、変電所で電圧などを調整したうえで、需用者である一般家庭や工場、ビルなどに配られる。この一連の流れのことを「系統」という。ダムや火力発電所、原発、鉄塔と送電線、変電所などのハードウェアと、電両需給を調整しているメカニズムも含めた全体が系統である。

「系統への影響」といわれる問題は、つぎの4点に集約できるだろう。

・電器機器のチラツキのような局地的な影響
・交流の系統全体に生じる周波数への影響
・電力の需給と供給をコントロールする需給調整の問題
・大停電につながるような大規模な影響

このなかで風力発電が系統に影響を与える可能性があるのは、最初の3つである。

チラツキについては、「系統連系ガイドライン」という技術基準に従うことで解決が可能である。解決のためのコストも、自然エネルギー事業者が支払っているので、電力会社の負担は基本的にはないと考えてよいだろう。

周波数への影響とは、需要と供給のアンバランスによって起きる現象である。風力の発電力量は、風の強さによって変動するため、供給が安定しないという指摘は間違っていないが、今の日本での風力発電の規模は、全体の電力需給の大きさから考えれば、相対的には無視できる程度に小さいため、周波数に与える影響もほとんど無視できるレベルである。

需給調整は、典型的には夏と春、休日と平日、昼と夜、の電力需要量の変動にどう対応するか、という問題として考えることができる。

需給の変動による周波数の変動調整は、詳細については紙幅の関係上省略せざるをえないが、以下の3つで対応が可能である。

1)秒単位での変動を調整するための、各発電機の「調整機」が自動的に対応するガバナフリー制御
2)数分から十数分の需給ミスマッチに対応するための、調速機の自動もしくは主導による「付加周波数制御」
3)より長周期の変動に対しては、個別の発電所に対する給電指令

風量などの自然エネルギーは、こうした調整のための「ベース電源」とんしては不適当だ、逆に原子力はベース電源として必ず必要だ、という主張をよく聞く。しかし、そうした主張は、「ベース電源」の意味を理解していない、ナンセンスなものだ。電力自由化の進んでいる欧州では、ベース電源を、「需給の変化に対応できない電源」として捉えるようになってきている。業界用語をもちいて説明すれば、需給の変化に対応した「キロワット」(kW、発電出力)の調整は期待できないが、「キロワット時」(kWh、累計での発電量)は期待できる電源である、と考えるわけである。その意味において、変動する風力発電も安定している原子力発電も、同じベース電源として捉えることができる。

結論としては、風力発電などの自然エネルギーが「系統に影響を与える」ことは事実だが、それが一定程度(欧州の経験では設備容量の20%程度)までであれば、既存の技術を用いながら、ちゃんとした経済的な仕組みを取り入れることで解決可能である、というのが現時点でのわたしの考えである。(p.88-92)





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原発ゼロでも温室効果ガス25%削減という国立環境研究所試算、ただし前提に問題あり

4月12日付けの毎日新聞に、国立環境研究所による、原発依存度別の温室効果ガスの削減試算に関する記事が掲載されていました。原発の割合と今後の経済成長率について複数のシナリオを想定して、温室効果ガスが1990年比で2030年までにどのくらい削減可能か見通しを示したものです。これによれば、原発がゼロでも最大25%、原発の割合が35%だと最大で39%の削減は見込めるととらえることができます。

原発の割合0%
 成長シナリオ  5〜20%
 慎重シナリオ 10〜25%

原発の割合20%
 成長シナリオ 14〜29%
 慎重シナリオ 19〜33%

原発の割合25% 
 成長シナリオ 16〜30%
 慎重シナリオ 21〜35%

原発の割合35%
 成長シナリオ 20〜34%
 慎重シナリオ 25〜39%

この試算結果を用いて何を主張するかは、各個人の自由だと思いますが、問題は、この試算が、2030年時点で原発の割合が20%以上のシナリオを想定しているところです。もはや原発の新設は現実的に不可能な中で、原発の稼働年数を40年とする現在の政府方針に従えば、2030年で電力に占める原発の割合は10%前半になるとされています。したがって、原発の割合が20%というシナリオ自体がありえないことが、まったく触れられていません。国立環境研究所の問題か毎日新聞の問題か、よくわかりませんが、もうちょっと私たちもそういうトリックについて、厳しく目を光らせて、指摘していく必要があると感じます。

<温室効果ガス>原発ゼロでも25%削減 国立環境研が試算

 東京電力福島第1原発事故を受け、温室効果ガスの削減目標の見直しを検討している環境省の中央環境審議会小委員会は12日、2030年の時点で発電電力量に占める原発の割合をゼロにしても、温室効果ガスの排出量が1990年比で最大25%削減できるとの試算を公表した。

 試算は国立環境研究所が実施した。2011〜20年度の平均成長率が実質2%程度で、消費者物価上昇率が中長期的に2%で推移する「成長シナリオ」と、平均成長率が実質1%強で、消費者物価上昇率が1%程度で推移する「慎重シナリオ」を想定。両シナリオを、省エネの促進や太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入対策の強度に応じてさらに3分類し、それぞれについて、原発の割合が0%、20%、25%、35%の4パターンで試算した。

 その結果、90年比の温室効果ガスの削減可能量は、▽原発の割合0%=成長シナリオ5〜20%、慎重シナリオ10〜25%▽同20%=成長シナリオ14〜29%、慎重シナリオ19〜33%▽同25%=成長シナリオ16〜30%、慎重シナリオ21〜35%▽同35%=成長シナリオ20〜34%、慎重シナリオ25〜39%−−だった。

 日本は、温室効果ガスを条件付きで20年までに90年比25%削減すると国際公約している。小委員会はこれらの試算を基に20年、30年までの削減幅について複数の選択肢を検討する。

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